松本研究室の研究

 機械材料の設計問題は、多くの場合、その性能を最大化する最適化問題として定式化されます。最適化問題を解くためには、手計算はあまりにも無力です。そこで、計算機(コンピュータ)を用いたシミュレーションを行うことになります。松本研究室ではこのような設計問題のためのシミュレーションソフトウェアの開発を行っています。具体的なテーマを分類しますと、次のようになります。

  • 構造物や素子の最適な形を求めるトポロジー最適化手法の開発
  • 様々な物理現象をシミュレーションするための高速解法とソフトウェアの開発
  • 特異な物理現象のシミュレーション

 以下では、それぞれをもう少し詳しく見てみましょう。

トポロジー最適化手法の開発

 最適化問題の解法の中でも、最も自由度の高い手法が「トポロジー最適化」と呼ばれる手法です。設計する対象の外形形状だけではなく、その穴の数、形を含めて設計することができます。トポロジー最適化問題は従来、材料力学の分野で発展してきました。本研究室でも、外力に対して変形が小さくなる構造を決定する最適化問題(剛性最大化問題)を、境界要素法と呼ばれる計算法とレベルセット法と呼ばれる形状表現を用いたシミュレーションソフトウェアの開発に成功しました。

 最近は、これまでの枠組みを大きく超えるターゲットとして、音・弾性・電磁波動デバイスの設計問題に取り組んでいます。これまでに、ある領域における音圧レベルを最小化する防音構造の設計(図3)や、弾性波(地震波)の伝播を制御するデバイスの設計に成功しています。

 今後は、大気中に飛んでいる電波を回収し、電力として利用するエナジー・ハーベスティング・デバイスや、流体・構造連成問題における構造・流路の最適設計法に関する研究を行う予定です。

様々な物理現象をシミュレーションするための高速解法の開発

 多くの物理現象は偏微分方程式の境界値問題として定式化することができます。しかし、コンピュータは、微分方程式をそのまま解くことはできません。そこで、偏微分方程式を連立線形方程式に近似して、コンピュータに解いてもらうことになります。この近似の方法が「有限要素法」や「境界要素法」と呼ばれる手法です。実際の物理現象をモデル化すると、連立線型方程式の未知数の数Nは数十万から数億程度となります。Nが大きくなるにつれて、計算量は膨大なものとなってしまいます。さらに、機械材料の設計を行う際には、少しずつ形、トポロジーを変化させながらその性能の最大化を行うため、解析を繰り返す必要があります。したがって、解析を高速に行うことのできる手法が不可欠となります。そこで、本研究室では、偏微分方程式のシミュレーション手法の高速化の研究も行っています。偏微分方程式の数理構造の本質を捉えた手法ほど、より高速化を実現することができると考えています。

特異な物理現象のシミュレーション

 近年、これまでの常識を超える特異な物理現象を示す人工材料を創り出す研究が行われています。例えば、フォトニック結晶・メタマテリアル等の電磁デバイス(光学デバイス)やフォノニック結晶などの弾性波デバイスなどがその代表例になります。これらを利用して、例えば、光学迷彩(透明マント)等が実現可能であると期待されています。しかし、現在までに行われてきたこれらの新規材料に対する研究は、試行錯誤による設計や簡便な手法を用いたシミュレーションがいくつか見られる程度です。

 本研究室では、有限要素法や境界要素法などの汎用な解析手法を用いて、より詳細な解析を行っています。

 これまでに、周期構造による弾性波の異常透過現象として波長より短いスリットを透過した波がビーム状に集中する現象(図4、図5)や、誘電体を不規則に配置したランダムレーザを用いた広帯域なレーザ発振現象等の解析に成功しています。さらには、トポロジー最適化により、透明マントを実現するための誘電体の分布(図6)を設計することにも成功しています。

図1:一端が固定され、他端に荷重を受ける構造のコンプライアンス最小トポロジー最適化問題

図2:計算によって自動的に得られた最適構造形状(2011年度M2生:志知晋一郎)

図3:計算によって自動的に得られた空間の一部の領域の音圧レベルを最小にする最適構造形状(2012年度M2生:栗山公平)

図4:異常透過現象の解析モデル

図5: 弾性エネルギーの解析結果。非常に小さいスリットを波が通り抜けている様子が見て取れる。(2012年度4年生:大澤尚希)

図6: 光学迷彩構造のイメージ図。中心に物体が配置されていると光の散乱が起こり、その結果、中央の図のように物体の存在がわかる。これに対して右の図のように中心に配置された物体の周りに誘電体を最適に配置することにより、何も置いていない場合(左図)と同じように光が通り抜ける。この結果、右の図では観測者は中心の物体を観測することができなくなる。(2012年度M1生:渡邊勇人)

松本研究室での学生生活

 本研究室では、コアタイムを設定していません。したがって、9時頃登校して18時頃帰宅する者、19時頃登校して32時ごろ帰宅する者など、さまざまです。

 また、4年生は、毎週金曜日に行われる研究進捗報告会以外には拘束がありませんので、院試勉強の時間がたっぷり与えられています。また、就職活動を行う時間も十分にあります。もちろん、意欲のある学生は、どんどんいろんな勉強をすることができます。学生同士での議論も盛んです。

 研究室の主要な行事は、次のようになっています。

  • 4月:歓迎会
  • 7月:暑気払い
  • 8月:大学院入試
  • 9月:旅行。これまで、熊野古道、日間賀島、神島、高山・白川郷・富山県氷見漁港・兼六園・山中温泉、佐久島などに行っています。美味い魚を食べる旅が多いです。
  • 12月:忘年会
  • 12月、1月:鍋パーティー
  • 2月:修士論文発表会、卒業論文発表会
  • 3月:送別会、卒業式、修了式

 過去の様子は、次の写真・ギャラリーを見てください。

 プログラミングの修得をかねて簡単な課題を通じて、レポートの作成方法、LaTeX、プレゼン資料の作成方法、プレゼンの仕方の基本をきわめて短期間に修得できるメニューを用意しており、研究室配属後、即座にこれらの基本を身につけることができます。その後、大学院進学を希望する場合は院試の勉強に専念することができます。また、留学生も多いことから研究室のセミナーでは英語で資料作成を行うことを勧めており、英語の基本を勉強するための文法書、参考書や勉強法のメニューが用意されています。

 研究は、各自個別のテーマを決め、まず研究を行う上で必要となる基礎知識を身につけます。 最初は主に物理的背景と理論を勉強し、最終的にはソフトウェアの開発まで到達することを目標としており、各自が自分のペースで研究を進めることができます。 一人一台のパソコンとデスクが与えられます。Linux、Mac OS、Windowsなど、それぞれ好きな環境で開発を行います。 また、研究室内にあるサーバ室には5台の高速計算サーバが設置されています。大規模な計算を行う際には、それぞれの計算機端末から計算サーバにリモート接続して解析を行います。プログラミングやパソコンが苦手だという人も、教員や先輩が丁寧に指導しますので、数ヶ月もすれば、不自由無く研究を行うことができるようになります。

 松本研究室では、親睦を図るため様々な行事を行っています。企画は学生が行いますが、毎年研究室の旅行は好評です。これまで大学院の入試が終わり、後期授業か開始される時期をねらって行っています。また、昨年秋に行った研究室の鍋パーティーも盛り上がりました。以下に、研究室旅行やコンパの写真をいくつか紹介します。

学生同士の議論

ある日の研究室の風景

研究活動の様子

 最後に、学生の皆さんへのメッセージを。大学(院)で研究したテーマに関する職に付く学生は多くはありませんが、学生時代に研究活動を通じて身に着けた、物事の本質を見抜く力、論理的に思考する力は一生の財産となります.小手先のテクニックだけではなく、物事を深く考える力を身につけて、社会で活躍できる人材へと成長してほしいと願っています.

© 2018 Matsumoto Lab.    This web-page is credited to NOVA TEMPLATE.